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(経営者向け)『人事労務の三大トラブル』解雇・残業・ハラスメント対策の基礎【解雇編】

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(経営者向け)『人事労務の三大トラブル』解雇・残業・ハラスメント対策の基礎【解雇編】

(経営者向け)『人事労務の三大トラブル』解雇・残業・ハラスメント対策の基礎【解雇編】

2021/10/13

三大トラブル(解雇・残業・ハラスメント)はどこの企業でも実在します。とりわけ問題社員を解雇したいという問い合わせを非常に多くの事業主からいただいております。早期解決を望まれるお気持ちはごもっともでありますが、過去の裁判例を見る限り、就業規則に記載のある普通解雇に該当する事由のみで解雇することは困難です。

今回は普通解雇、懲戒解雇で解雇に関する知識を学んでいただいたうえで、問題社員との対峙の仕方について、経験に基づきお話させていただきます。 

目次

    普通解雇とは

    解雇には大きく普通解雇、懲戒解雇の2つに大別できます。俗にいう解雇とは普通解雇をいいます。(整理解雇も普通解雇の一部です。)
    普通解雇をするうえでは、下記の要件をすべて満たさなければなりません。

    ①解雇事由が正当であること
    →”客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認めらない場合は、その権利を濫用したものとして無効”なのです。
    (こちらは色んな法律で見られる常套句です。)

    ②解雇が労働基準法上の解雇制限中でないこと
    →業務災害の療養中または産前産後休業中およびその後30日間(=解雇制限期間)の解雇でないこと

    ③解雇予告、解雇予告手当の支給が適正であること
    →解雇日が翌日より30日以内にある場合は、解雇予告手当の支払いが必要です。

    ④解雇事由が就業規則に記載があること
    *根拠条文として記載していた方が望ましい

    事業主:なるほど、社内に1人問題社員がいるんです。与えられた仕事がまったくできず、問題点を指摘するも、総じて自分は悪くない。あーいえばこういうタイプ。同じ給与、同じ職責の○○さんは物凄く仕事ができるのに。就業規則に「能力不足の従業員は解雇できる」と記載もあるし、他の社員にも迷惑ですから解雇していいですね!?

    私:だめですね。上記4要件のなかで最も重要なのは①の解雇事由の正当性です。「他者と比較して仕事ができない」だけでは根拠が薄いです。たとえば「本来の役職レベルに見合った職務遂行能力、人間力等はこう定義されており、xxさんは実態としてこの部分の能力が不足しているから、早急に正すと同時にこのタスクをいついつまでに完遂させましょう。」というように、言うべきことは然るべきときにお伝えするところから始めなければなりません。いわゆる注意勧告です。

    事業主:ではさっそくxxさんに注意勧告してきますね!

    私:ちょっと待ってください。周到な算段なく対応しないでくださいね。その勧告も「根拠」があって初めて意味を成します。この場合の根拠とは、役職レベルごとの能力や経験年数、給与などが一覧化された役職等級表、もしくは要所要所でフィードバック面談を行っているならばそのエビデンスなどをいいます。つまり、問題社員の仕事内容を会社が把握していないならば、まずはきっちり「知る」ところから始める必要があるということです。このようなご相談がある場合、会社は問題社員と会話をしていないケースが多いです。核論に入る前に、まずは本人に対して、仕事が楽しいか、やりがいをもって働いているか、周囲との人間関係はどうか、業務内容、方法に問題がないか、今後のビジョン、キャリアをどう考えているかなどをヒアリングしてみてください。まずは情報を集め、来る指導のための準備をしましょう。

    事業主:承知しました。確かに私も冷静でなく、早く辞めさせたいことばかり考えていました。一度解雇抜きに会話してみます。
     

    ポイント

    ・解雇する前には周到な準備をしましょう。
    業務への取り組み姿勢や今後どうしていきたいか、まずは本人の口から語らせてください。これは退職勧奨や解雇の言葉を匂わす前に行ってください。なぜならば、防衛本能が無意識に働き、まともな会話にならない可能性があるからです。他の社員と同様、通常の定期面談として行ってみてください。

    ・解雇は最終手段であることを意識しましょう。
    ヒアリング→情報整理→フィードバック(注意勧告)→2~3か月様子見→フィードバック→情報整理→ここで初めて第1回目退職勧奨*
    *このフローはあくまでも最短の目安となりますのでご承知おきください。
    解雇は使用者側の意思表示により一方的に労働契約を解除できることを指しますが、本気で社員と向き合い、なおも本人に改悛の情がなく、社の存続上やむを得ない場合に限り有効だと私は思います。本気で向き合う期間は個別案件(判例法理による)によりますが、普通解雇に正当性を持たすには、会社は最低でも1年から2年間は指導し続ける必要があるようです。
    解雇を願う社員はおりません。まずは社員の声に耳を傾け、改善の余地を模索しましょう。

    懲戒解雇とは

    懲戒解雇とは、民間企業において、就業規則に基づく懲戒処分の一つとして行う解雇のこと。社員に対する最も重い処分で、対象者は重大な違反を犯す者として社会全体で認識され、報道されることもしばしば。社会的地位を失うことで、再就職も難しくなります。

    懲戒解雇をするうえでは、お察しのとおり、就業規則に懲戒処分としての条文を記載しなければなりません。
    また、解雇の事由が、合理的で社会的に相当である必要がありますが、具体的な基準に関しては明確になっておりません。
    ただし、判例法理によりその事由の悪質性が重大だったかで判断されていることは明らかであり、一般的に次の行為が行われた場合、懲戒解雇たる合理的かつ社会的相当性があるとして、懲戒解雇が肯定される可能性が高いです。
     

    職務上の地位を利用した犯罪行為

    会社の金庫番の経理部の社員が、会社の利益を着服し、帳簿書類を改ざんすること。
    営業マンがインセンティブ欲しさに架空の取り引き先をでっち上げることなど。
    会社への背信行為、会社イメージの低下、損失額も多大なもの、かつ私利私欲のための身勝手な行為のため極めて悪質性が高いと言えるでしょう。
     

    重大な経歴詐称

    前職、一般職止まりだった者が部長職と偽り入社し、重要なポストと高額な給与を不正に獲得したこと。
    一流企業に入社するため、出身大学を偽ったことなど。
     

    会社の名誉を著しく損なう行為

    業務とは関係のない社外で起こした犯罪行為(暴行・殺人・強盗・強姦など)。
     

    長時間の無断欠勤

    対象者が正当な理由なく1ヶ月以上無断欠勤を続けること、度重なる出勤命令にも正当な理由なく拒否し続けることなど。
    会社へ与える影響度も大きく、極めて悪質な問題行動と捉える以外に手立てがなく、懲戒解雇が認められる可能性があります。
     

    重大なハラスメント行為

    セクシャルハラスメントやパワーハラスメント、その他ハラスメント行為は、通常は一行為で懲戒解雇となるものではありません。しかし、刑事罰となりうる強制わいせつや強姦、恐喝や傷害等の行為は、その行為の悪質性から懲戒解雇が認められる可能性があります。
     

    同様の問題行為を繰り返す

    軽度のハラスメント行為、単純な無断欠勤、業務命令違反等については、注意指導や軽微な懲戒処分 (訓告や減給など)で対応されるでしょう。しかし、このような是正措置を会社が講じても本人が改悛せず、同様の行為を繰り返す場合は、その行為が悪質であるとして懲戒解雇が認められる可能性があります。
     

    もしも判断に困ったら・・・

    上記の事例を参照し、懲戒解雇の判断が困難な際は、一度労働問題に詳しい弁護士にご相談してみてください。弊所でもご案内が可能です。

    まとめ

    解雇は最終的な手段であり、まずは問題社員を知ることから始めましょうとお伝えしました。
    社員を知ったうえで次にすべきことは注意勧告になりますが、正直この伝え方こそが最も重要な部分です。担当者が誤った伝え方をしてしまいますと、会社の意向が100%伝わらないだけでなく、今よりも人間関係を悪化させ、最終的には会社全体に悪影響を及ぼす可能性があります。きちんと社員を指導するためには、それに応じたフレームワークに沿ってお伝えすべきかと思います。そこで今回参考までに、最後にゴールデンサークルを使用した指導方法をお伝えします。
     

    ゴールデンサークル理論とは

    サイモンネック氏が提唱するゴールデンサークル理論は、一言でいうと物事の本質を説明するためのフレームです。「WHY(なぜ)」「HOW(どうやって)」「WHAT(何を)」の順番で円が構成されており、物事を説明するとき、「WHY」から伝えることでより多くの人の共感を得ることができると説いたものです。

    一般的にセールスの現場でよく使われますが、人を動かしたり教育の過程でも応用がきくと思います。
    たとえば、WHY、HOW、WHATのフレームワークで能力不足の問題社員の指導を行うとした場合、次のとおりになります。

    <WHY>今の経理業務は管理部門のなかで極めて重要な位置づけです。キャッシュの実値管理は今後の経営計画に直結します。記帳は慎重に行わなければならない一方で、時間は有限であるため、細かで多くのタスクを所定労働時間内に正確に終わらせるだけのスピード感も必須不可欠なスキルです。(信念、目的、何のためするのか)

    <HOW>全体の作業量を勘案して、同じ役職レベルの○○さん業務量とスピード感、正確性とxxさんとを比べると、少々作業効率を高めてほしいと思っています。△△まで対応してほしいし、会社的には作業方法を変える、xxさんの考え方を変えるだけでそれが実現可能だと思います。〇〇さんに相談してみたり、作業効率アップのための方法を考えてみましょう。必要に応じて私も一緒に考えてみますね。(商品やサービスの説明、方法、理論)

    <WHAT>xxさんの記帳方法が少々非効率的な方法のため、〇〇さんが対応している方法で1か月間対応してみましょう。(商品、サービス)
     

    結び

    いかがでしたでしょうか。最もやってはならないことは、問題社員に対し、結論(WHAT)から伝えてしまうことです。この場合は物事を順序立てて説明しなければなりません。なぜなら、否定から入られると頭に血がのぼり、その後どんなに感謝の言葉を与えたとしても本人の記憶に全く残らないからです。指導する際のプロセスとプレゼンをする際のプロセスは全く別です。

    経営者・指導者はこの違いを明確に抑えておくと、会社の思いは社員へと伝わるでしょう。

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