(経営者向け)『切り札を使う前にこれだけは押さえること』斡旋・調停・審判のポイント
2021/10/15
労使間でトラブルが発生した場合、当事者間でよく話し合ったうえでその問題が解決に至れば何も言うことはありません。しかし、実態は残念ながら双方の話し合いが食い違い長期化し、その多くは解決することなく、会社が強硬手段に踏み切ってしまうような極端なケースが散見します。
社内に法務部門がない限り、このような強硬措置は、いかに社員側に相当の非があったとしても後々大きな訴訟に発展した際には非常に大きなリスクを伴います。
そこで今回は労使間の話し合いが一向に進展しない場合の解決策として、あっせんと労働審判という方法がありますのでご紹介します。
目次
「紛争」とは、解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件からいじめ、いやらがせ、ハラスメント、会社所有物の破損にかかる損害賠償、募集・採用(あっせんは除く)まで幅広く対応しておりますが、あくまで「個別労働関係」になりますので、対労働組合が絡む案件は対象外となっています。
紛争解決援助制度は、当事者間の迅速かつ自主的な問題解決をモットーとしておりますので、とにかく超短期決戦、たった1日で当事者双方から意見徴収のうえ解決案の提示まで一気通貫で行うことが大きな特徴です。
費用も無料ですので、社内での話し合いではまったく埒があかなく、労働問題に精通した専門家がお近くにいない場合、もしくは合理的な解決策を早期に望まれるときは、利用を検討してみるのもいいでしょう。
あっせんの概要
あっせんは、紛争当事者の間に労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。労働局内の一室で行われ、期日(あっせんの開催日)は1回のみです。あっせんは裁判ではないので、当事者の一方が解決策に納得しない場合は打ち切りとなり、これで終了です。(その後については後述します。)
フローは次のとおりです。
①管轄の労働基準監督署内、総合労働相談コーナーに相談(予約不可・電話可)
②あっせん申請手続き
③労働局は紛争調整委員会にあっせん委員を委任する(間に入る専門家を誰にするか決める)
④期日を申請者へ通知する(申請者は当事者へ通知)
→ 一方が拒否した場合はその時点で打ち切り。期日の変更は可能。
⑤期日、指定時間、場所に集合しあっせんを開始(労使ともに同日に行うが、別々の時刻に集合、待機場所も異なる。進行は社員→会社→社員→会社・・・と交互にあっせん委員が事実確認をしていくため、当事者同士が顔を合わせることはない)
⑥あっせん委員が解決案を提示
⑦合意ならばその場で合意書に署名締結、至らなければ打ち切り
⑧打ち切りの場合、あっせん委員は別の紛争解決促進機関を提案
→ 一般的に「労働審判」を勧めてくるでしょう
ポイント整理
②あっせんの前には、労働基準監督署内の総合労働相談コーナーで指導を受ける
→ 解雇を検討する場合で、直接的な対話、具体的指導の有無、雇用契約書、就業規則の内容、紛争の直接的な原因より「客観的に合理的でない場合」は、あっせん申請できない場合があるので注意。
③あっせんの参加は任意であり、不参加でも罰則はない
④一切の費用はかからない
⑤当事者は専門家を代理人に立てたり、1名に限り同席させることができる
⑥解決案を受け入れなくても罰則はない
と、少し驚かせてしまったかもわかりませんが、労働審判を拒否し訴訟に発展するケースは極めてレアケースです。労働審判は、調停→審判→訴訟の順に進めていき、調停の段階で約70%の案件が解決しているというデータがあります。
調停とは、当事者間の話し合いです。
(あれ、「あっせん」も確か話し合いで解決しますよね、何が違うのかな??)
はい、大きな違いは、一堂に会して事実確認を進めていく点です。また、あっせんの場合、解決案の提示・判断は有識者1名が期日1日で執り行う超短期決戦です。調停は裁判官を含め有識者3名、期日は最高3回あるため、より調停案の妥当的合理性は高く、それ故に双方提示された調停案に納得する傾向があります。
社員側も訴訟は求めていませんし、調停案がかなりの妥当的合理性を有しているため、これを突っぱねるということは裁判官の心証を損ねることになります。
(ちなみに、労働審判では社員にとって不利な判決が下ることが調停内でなんとなくわかってしまうようです。)
このあたりは弁護士も同席し、きちんとアドバイスをしてくれるはずなので、調停(和解)で大部分が決着する理由になります。
※ちなみに社員側が訴訟を求めていないその根拠は、最初から訴訟するならこんな回りくどいことをせず、訴訟から入ればよかったのにそれをしなかった理由は調停に期待しているからです。この売り手市場、再就職をまずは第一に考えるとしたら裁判は長期戦。裁判中に就職活動はできませんよね。故に労使双方、短期解決したいという思いに関しては、一致していることになります。
労働審判の概要
フローは次のとおりです。
①社員側が労働審判の申し立てを行う
②裁判所が会社へ呼出状を送付する
③②を受け、顧問弁護士と相談、答弁の準備をする。(主張を固める)
④期日当日、労働審判委員会が双方の主張を聞き、争点の整理や関係者への証拠調べを行う(計3回まで実施できる)
⑤労働審判委員会から調停による解決が試みられる(調停が成立した場合には、裁判上の和解と同一の効力がある)
⑥調停に不服がある場合、労働審判委員会は審判をくだす
⑦審判に不服がある場合、不服申し立てを行う
⑧訴訟の準備に入る
労働審判は最後の和解策
通常裁判になりますと、1年を超えて争います。しかしながら労働審判は調停が行われる日(当事者が一同を介して事実確認、主義主張を答弁する日)は3回までと決められています。ゆえに1案件につき、そのほとんどが3か月以内に決着していることが最大の特徴です。また、労働審判は近年増加傾向にあります。なぜならば、あっせんに比べて解決金が最高8倍にもなるというデータがあること、着手金なし成功報酬型で請け負う弁護士事務所が増えてきていることから、容易に会社と戦うことができてしまうのです。これは一概に悪いわけではなく、不当な経営をしている会社にとっては自業自得でありますが、その一方で、労働問題を故意にでっち上げ、解決金を搾取しようとする社員も生みだしてしまうのも事実です。もしも面倒なことになりますと、解決金だけで100万単位、弁護士費用やその他社会保険料や税金等も含めると、その倍以上は覚悟しなければならないでしょう。また対象者が1人で済めば良いですが、複数名に波及する場合もあります。それでも短期決着となり、調停、審判の下した判断に従えば、確実に労働問題が解決することなりますので、見方を変えれば多少の出費はやむを得ないと割り切る会社も少なくありません。
労働審判で解決できない場合は「訴訟」しかありません。
最後に訴訟リスクをおまとめしておきます。
訴訟に発展した場合、双方にとってデメリットがあるかと思います。たとえば下記の点、
被告側としては、
・解決まで長期化し、本業に支障をきたす
・当初より弁護士費用や未払い金額が増額する可能性があるなど
原告側としては
・心証を損ね、調停時の解決金よりも低い判決が下る可能性がある
・再就職が難しくなるなど
が挙げられます。
先ほど申し上げた通り、労使双方訴訟を望んでいないのは明白です。そのためにも調停内できちんと感情をコントロールし、解決に向けた前向きな話し合いに尽力いただければと思います。
会社に非がある場合は、潔くその非を認めること。残業代未払いなんかはまさにこれですね。社員も会社から不当な判断をくだされたときは、一度冷静になり、その判断の本質や自身の言動を思い返すこと。客観視を持つことは大事です。
双方冷静に話し合うことができれば、新たな気づきがあるかもしれません。是非、会社側人事担当者は、積極的に話を聞いてあげましょう。ちょっとしたことがきっかけで、事態は好転するものです。