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労務管理に役立つ知識#74『兼業・副業の始め方』ガイドラインからひも解く(副業・兼業・就業規則)

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労務管理に役立つ知識#74『兼業・副業の始め方』ガイドラインからひも解く(副業・兼業・就業規則)

労務管理に役立つ知識#74『兼業・副業の始め方』ガイドラインからひも解く(副業・兼業・就業規則)

2023/01/05

副業,兼業解禁に向けての諸注意働き方が多様化している今般、政府主導で副業,兼業を全面解禁する動きが強まってきています。企業が副業,兼業を開始する際は、厚労省発出”副業,兼業ガイドライン(202207更改)”に沿って導入することとなりますが、ご存じない方もおられるかもわかりませんので、ポイントを絞って解説したいと思います。

 

まずは用語の定義です。副業と兼業の違いについてですが、こちら法律上定義付はありません。捉え方はそれぞれなのですが、個人的には下記のように整理しています。

 

副業:本業の収入を補完する目的で、雇用の有無をかかわらず、一定期間継続して収入をえること(アフィリエイト収入、業後休日の短時間アルバイト、専門知識を活用した業務委託(アプリ開発,コンサルティング等)、インターネットを活用した収入(例えばココナラ)等)


兼業:本業と兼務する形で収入をえること。本業と客観的に区別することが困難な業務。副業が業務をメインとサブと区別できるのに対して兼業は明白に区別するこが難しい。例えば所定労働時間が本業と同時間程度のパラレルワーク、他社の役員、事業の開始等です。
※ただし、区別するにしても基準が不明瞭のため、一概に線引きは出来ません。収入なのか労働時間なのか責任の程度なのか…
※何が副業で何が副業に当たらないかは会社ごとに見解が異なります。

 

今回は、わかりやすくするため、"兼業を事業を開始すること",副業はそれ以外とします。そして明らかに副業に該当しないものは”常識の範囲内のもの”とさせて頂き、”副業”を開始する際の懸念点について解説を続けたいと思います。
※”常識の範囲内のもの”とは、例えば、個人投資による為替差益、業としない個人オークション販売等をいいます。

 

さて、大前提として「原則会社は、労働者の副業を認めるのが適当とする」という”通達”が存在しておりまして、会社はこれに従う必要があります。
※ちょっと古い通達なのですが、これを無視することはできません。

 

つまり、
”一般的に、業務時間外の時間を労働者がどのように使うのかは本人の自由、即ち当然の権利であって、会社が一方的にその権利を奪う事は許されない”
ということです。

 

このことをまずはご認識ください。

とはいえ、会社は従業員と雇用契約を締結しており、従業員は、労働契約上の債務の本旨を履行する責任を負っています。故に、副業に専念し、本業に支障をきたすことなど到底許されるはずもありません。また、会社は副業を認めることで、様々な労務上のリスク(労働時間の管理や残業代支給、長時間労働による健康障害や副業先での損害賠償等)を負うのも事実です。何の規制もなく副業を認めるにはリスクが高すぎる。

 

このあたりをどう捉えるか。

 

そのためガイドラインでは「原則副業を認めるとしながらも、一定の要件であればこれを拒否できる」と定めており、労使双方が遵守すべき次の4つの義務の観点から、総合的に、会社は副業可否の判断をすることができると明記されています。


①安全配慮義務
業務上の高稼働者は、原則健康上の理由や法律上の制約等(労働基準上の労働時間の考えや36協定)から、本業に支障をきたす恐れがあるため、これを認めないとすることは可能です。ただし、こういう事実が発覚したときは、相応の措置(業務の適正化)を行い、副業可能な就業環境を整備する必要があります。
※なお、雇用を伴わない副業(業務委託を含む。)は、”労働時間”という概念を持ちません。即ち趣味の範疇で行うため、高稼働だけを理由に当該副業を拒否することはできません。

 

②秘密保持義務
上場を控えていたり、営業機密を有している担当者等、情報漏洩リスクが極めて高い者を認めないとすることは出来るかもわかりません。また、副業開始前Xか月以内に情報漏洩インシデントを起こした者を除外する等、会社独自ルールを定めて除外することも可能です。

 

③信用保持義務
自社の名誉や信用を損なう行為を行った者、信頼関係を破壊する恐れがある者(想定できるとき)にこれを認めないとすることは可能でしょう。少し抽象的でピンとこないかもわかりませんので、「副業希望者の副業内容が、会社の組織人として適正な内容かどうか」という軸で判断してみるのはどうでしょうか。例えば、性風俗関連特殊営業の禁止です。(大手企業ではブランディングの一環で”禁止”と就業規則上明記していたりします。中小企業でも通例です。)
また、評価制度を導入している企業であれば「直近の評価が〇以上の者」と就業規則に定め、これを下回る者は、本来の業務に対してパフォーマンスを発揮できていない(債務の本旨を満たしていない=強固な信頼関係とまではいえない)として、認めないとすることも一定の合理性は担保できるとして判断出来るでしょう。

※副業を希望する者は「副業開始時届」のような書面を会社へ提出するのが一般的です。この届出において、会社は開始時期や副業内容を確認します。なお、雇用を伴う場合は、副業先の労働時間を管理する必要があるため、別途毎月勤怠を提出してもらう必要があります。中にはあまり会社に言いずらい内容のため、事実をはぐらかしたり、虚偽の内容で申告する方もいらっしゃるのですが、宣誓書と兼務する形で届出してもらうことで、誓約違反が発覚した場合については懲戒処分で対処します。
※懲戒処分とする場合は、就業規則に明記が必要です。

 

④競業避止義務
競業他社と直接取引することにより、会社の利益を害する恐れがある場合はこれを認めないとすることは当然可能です。高度プロフェッショナル人材、特にIT企業で可能性が高いです。これを防止するには、届出の際に、取引先(予定)企業を申告してもらったり、予め会社の方から既存客、見込み客をリスト化し周知しておく等の対策が考えられます。副業の許容範囲をどこまでにするのか、判断基準をどこまで厳格化するのかは会社によって異なります。弊所のスタンスとしましては、中小企業の場合、まずは一般的な内容で割り切って開始し、トライアンドエラーを繰り返しながら、運用方法や判断基準等を時々にアップデートしていくことを推奨しております。
※あまりに厳格化し過ぎますと、社員のための副業制度が全く進みません。

 

物価は上昇し続けるも、なかなか賃金を上げることが困難な状況下において、収入アップの後押しを会社が積極的に促すことは、従業員にとって非常にポジティブな印象を与えるものです。一方で、会社が想定するリスクに対し、一定の備えをしておく必要があるのも事実。このバランスを一度社内でご検討頂きつつ、本内容を貴社の副業解禁にお役立て頂ければ幸いです。

 

※雇用を伴う副業時(例えば業後に短時間週2日カフェでバイトする等)の、労働時間算定の諸注意につきましては、次回解説したいと思います。

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