労務管理に役立つ知識#32 『減給の制裁ルール』(渋谷・社労士・顧問・労務相談・問題社員・懲戒・減給)
2022/07/13
懲戒処分とは、社内の秩序を保持するために科せられる制裁や、特別の監督関係または身分関係にある者に対し、一定の義務違反を理由として科する制裁のことをいいます。前者は一般職者向け、後者は管理監督者向けといったところでしょうか。
言い換えれば、会社は社会的存在であるため、社会的倫理に反する者に対し、過去を猛省し未来に向けての原動力とするための処置ということです。
懲戒処分は、段階的に強めていくのが慣例であり、減給の制裁は譴責処分(始末書の提出)に次いで重い処分。
今回は減給の制裁をするうえでのルールとポイントをお伝えしたいと思います。
まずは2つのルールについて。
//ルール1
・控除金額は、1事案につき平均賃金の1/2を超えてはなりません
つまり、個人の重大なミスで1000万円の損失を出したとしても、減給の制裁で処分するのであれば、数万円程度が上限ということです。
平均賃金とは、処分する月の直近3か月間に支払った総支給額から、総歴日数を除した金額をいいます。
割増賃金や手当(通勤手当やリファラル手当等の非固定的手当を含む。)が多い月だと総支給額が高く算出されます。
//ルール2
・控除金額は、月の総支給額の1/10を超えてはなりません
このルールは労働基準法に明記されており関心も高いことから、すでにご存じの方も多いのではないでしょうか。
ここから専門的な内容になります。
ポイントは『1事案についてのルールである』ということです。
つまり、対象期間に複数回制裁事案が発生している場合は、1事案ずつ制裁を科していきます。
たとえば、4月と5月の2か月間で下記のように複数回のミスがあったとします。
4/01…重要書類の紛失
4/10…重要会議に遅刻
4/12…重要メール誤送信
4/25…寝坊
5/15…寝坊
5/31…貸与物の紛失
※額面30万円、平均賃金1万円とします。
平均賃金1万円ですので1回の控除額は5千円、月の上限額は3万円です。
4月は4回の非違行為が発生していますので2万円の控除、
5月は2回の非違行為が発生していますので1万円の控除、
が可能です。
これが4月に7回非違行為をした場合、3万5千円を控除したいところですが、
上限額を超過した5千円分は、翌月5月から控除することになります。
なお、懲戒は二重処分の禁止(一事不再理の原則)というものがあり、
たとえば上記のような減給の制裁に加え、役職を外す(降格処分)ことはできません。
人事権で降格の判断をくだすこともありますが、この場合の降格は、懲戒のそれとは性質が異なります。
懲戒処分としての降格は、勤怠不良や重大な業務違反などが根拠となりますが、人事権での降格は、経営上の判断や組織上の必要性、個人の経験や知識不足により業務を満足に遂行できないなど、その地位や職務にふさわしくないと判断された場合としています。一見後者は懲戒に寄っている感はありますが、もう少し付け加えると、役職者が介護が理由で柔軟にプロジェクトの指揮を全うすることが出来なくなったため、双方合意のもと降格処分とする、など個人的事情を考慮します。
※他の人事上の措置(配転・転勤等)は、正社員であるならば個別の同意は不要ですが、降格については後々不当人事として訴訟されるリスクがありますので、合意をとっておくことを推奨します。
以上より、重大な過失があった際は、その程度をしっかりと分析し、減給の制裁が適していればそれでよし。程度が大きければ懲戒としての降格処分もしくはそれ以上の処分を検討するとよいでしょう。
懲戒処分は就業規則への記載と手順が大事です。
感情的にならず、事実にフォーカスし、毅然とした態度で対応しましょう。