労務管理に役立つ知識#59 『完全出来高制の採用』完全出来高制(歩合制)は違法なのか(渋谷・社労士・顧問・完全出来高制・完全歩合制・労務アドバイザリー)
2022/09/19
事業主は、会社の利益に貢献してくれた従業員には、対価に見合うだけの報酬を支払う意思を持っています。何なら青天井で払いたいと。一方で会社に貢献出来ていない従業員には1円も支払いたくないとおっしゃる方が増えてきているように感じます。特にベンチャーではリソースが限られている、かつ、イケイケの社長自ら営業部長を兼ねていますから、自然とセルフスタンダード(自分が基準)となり、給与基準がシビアになる傾向があります。
このようなベンチャーの事業主から「”完全出来高””完全歩合””オール歩合”といった給与制度にしたいのですが、導入できますか?」とご相談。
さぁ、貴方ならどのようにお答えしますか?
結論から申し上げますと、完全出来高制は不可能です。
給与制度は、従業員の給与の支払い方法を定めたもので、従業員に適用します。従業員は、労働基準法で守られており、労基法27条には「出来高払制その他の請負制で働かせる社員には、労働時間に応じて一定額の給料の保障を行わなければならない」と定めています。つまり、労働時間に応じて一定額の”保障給”を支払う必要があるということです。
これを見る限り、出来高制そのものを否定する根拠にはなりませんが、保障給を支払う以上は、少なくとも”0”には出来ない(完全出来高はできない)ことを覚えておきましょう。即ち、完全出来高制とするには従業員としてはならず、どうしても採用したい場合は、雇用契約の締結を解除しなければなりません。
ではこの保障給、いったいいくら支払えば良いのでしょうか。
事業主は、従業員の労働時間を適切に管理しなければなりません。故に、27条の”労働時間に応じて”とは総労働時間、一定額を”最低賃金額以上”と読み替えると、『保障給=総労働時間×最低賃金』が一つの答えとも考えられます。
実際、何円とする等の記載がないため、会社に委ねることになりますが、保障給の趣旨は『従業員の最低生活を保障すること』にあるので、通達により次のような旨が示されています。
・通常の実収賃金とあまりへだたらない程度の収入が保障されるよう保障給の額を定めるべきである
・賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額の大半(おおむね6割程度以上)を占めている場合には、「請負制で働かせている」ことには該当しない
このあたりを踏まえ、検討するとよいでしょう。ちなみに正社員でも時給制を採用しているところもあります。
個人的に出来高制の採用には大いに賛成です。
しかしながら、常態として毎月出来高制とするには、少々事業主側の横暴とも考えられます。なぜなら、良い結果というものは1か月という極短期間で出せるものではないと思うからです。結果と今を繋ぐ道をまずはイメージし、そこに種をまき、誠実に努力を重ね歩みながら、一定の期間をかけて果実を収穫する。この一定の期間というのが、大抵は6か月や12か月を指すでしょう。
「あれ、6か月ごとに結果を判断するってこれって何かと似ている気が。。。」
そうです。賞与の考え方です。
まさに出来高制は賞与に落とし込めるのです。個人的な見解ですが、完全出来高制を採用するのであれば、現在の賞与制度を見直してみるのはいかがでしょうか。最近のトレンドとしては業績賞与の中に組み入れられる傾向にあります。もしくは、会社業績は現賞与、個人成績を新歩合給で判断してもよいでしょう。
従業員の給与・賞与はうまくいけば従業員のモチベーションに直接強く働き掛けます。
出来高制の採用にお悩みならば、専門家の意見を参考に、是非社内の賞与制度の見直しをご検討ください。