労務管理に役立つ知識#23 『営業職と残業代』(渋谷・社労士・労務相談・残業・営業・事業場外裁量労働制)
2022/06/10
すかいらーくの残業代遡及ニュース
非常に衝撃的でしたね
当初は人事側がクリーンな体制を履行すべく経営陣を説得し、残業代遡及支給へ踏み切ったのだと思っていましたが、実は1人のアルバイト従業員が、残業代未払いに違和感を覚え、個人で労組に加入し、団体交渉権で勝ち取ったものだったのですね。
労働組合恐るべし、って感じです。
会社側の言い分は定かではないですが、残業代未払い問題は、非常に世間的にも関心度の高いトピックですので、明日は我が身ということで、今一度自社の残業代の未払いについて考えてほしいと思います。
今回はその最たるものとして、営業職と残業代について考えてみたいと思います。
うちの営業職には営業手当を出してるから大丈夫!
事業場外みなし労働制を取り入れてるから大丈夫!
って思っているアナタ!
全然大丈夫じゃな~~~~~~い
確かにふた昔前は、営業手当を支給し、営業手当ですべての時間外労働を担保しても問題ないという話を、人づてに聞いたことはありますが、令和のこの時代にそれがまかり通るわけがありません。
では、事業場外みなし労働制を取り入れている場合はどうでしょう。
確かに場合によっては残業代を支払う必要はないかもしれませんが、限りなく難しいのでこれから説明したいと思います。
まず事業場外みなし労働制とはどうのような働き方になるのでしょうか。
営業職や添乗員など、常に一定の場所で仕事をしておらず、常態として事業場外で業務を遂行しているため、労働時間の算定が難しいときに、その業務を通常必要とする時間(労使協定に定めた時間)を労働したものとみなす制度です。
ですので、1日の外回り訪問営業+事務作業が8時間とするならば、5時間で終了しても12時間かかっても8時間労働したものとして賃金を支払います。
ここで問題なのが、毎日12時間働いているとしたらどうでしょうか。制度上は8時間労働したものとみなしますので、4時間分の割増賃金を支払う必要はありません。しかしながら、その業務を完遂するのに通常必要とされる時間が、そもそも間違っている可能性があります。
このあたりはケースバイケースになりますので、この場では何とも言い切れません。
仮に残業代を請求する場合は、労働紛争に持ち込んだときに備えてエビデンスを残す、もしくは人事部へ相談し人事部経由で労使協定の見直しをされた方がよろしいかと思います。残業代のエビデンスは当事者側が立証する必要がありますので、メモ書きでもよいのできちんととっておきましょう
明らかな従業員側の故意によるもの(生活残業代を稼ぐためのもの)を除き、判決にはやはり従業員側にバイアスがかかる傾向にある気がします。事業場外みなし労働制を悪意を持って利用する経営者や、それを平然と指南するコンサルタントもおりますので、”実際の1日の業務量”に合わせて通常必要な時間を設定してみてください。
ちなみにこのみなし労働制、労使協定締結すれば実施できるわけではありません。
そもそも実施できない可能性が高いのです。
ですので、条件を満たしていないのに、あたかもみなしているように偽装したり、条件を知らずに運用している会社もありますので、「うちの会社は大丈夫なのかな?」と思ったら、労働基準監督署に意見を聞いてみるのもよいでしょう。優しく見解を教えてくれますよ
上記、条件とは大きく2つあります。
①業務の一部または全部を事業場外でおこなっていること(自宅含む)
②労働時間の算定が難しい事
①はわかりやすいと思います。問題は②です。
②は主観的に算定が難しいというだけでは足りず、実際の就労状態から、客観的にみて算定が難しいということを証明しなければなりません。
有名な裁判例から判決を読み解いてみましょう。
下記の内容では、労働時間が算定し難いとはいえず、みなし労働制が認められませんでした。
//阪急トラベルサポート事件(添乗員が残業代を求めた裁判)
・日程表やマニュアルによって具体的な業務の指示があり、それに従うこと
・ツアー中は常に携帯電話の電源を入れておくこと
・ツアー客とのトラブルやクレーム、日程の変更が必要になった場合は報告し、指示を受けること
・ツアー終了後は添乗日報などによる報告をすること
//光和商事事件(営業担当が残業代を求めた裁判)
・勤務時間が決められていた
・毎朝実施される朝礼に出席してから外出し、午後6時までに帰社し、清掃して終業となっていた
・メモ書き程度だが日々予定表を会社に提出していた。また、その予定表の行動内容を会社に報告した場合は会社側が予定表に抹消線を引くなどしていた
・営業職の社員は全員、会社の携帯電話を所持していた
・タイムカードを打刻していた(出勤や遅刻の管理のためとはいえ継続して打刻していた)
上記より、会社の指揮命令が就業中の大半に及び、かつ、業務の内容について管理報告義務があることは、みなし労働制という従業員側の自由裁量を否定しているみなせることから、労働時間を算定することが難しいとはいえず、事業場外みなし労働時間制は認められませんでした。
多くの会社は、社員に携帯電話を持たせ、業務指示やホウレンソウを徹底させているのではないでしょうか。これが事業場外みなし労働制が世に浸透していない理由です。営業職は全企業に存在するでしょう。その実施率どれくらいだと思いますか?令和3年度直近の統計で11%です(この中にはブラックな使い方をしている会社も含まれているでしょう。)たった10%の企業でしから採用してないんですよとても便利そうなのに。全企業の10%の浸透率ですから、よほどの関係性が構築された、少数精鋭の営業部隊でないと、なかなか導入は難しいということです。
導入できそうなら積極的に導入を。上長の管理下に置いてどうしてもコントロールしたいのであれば、通常の働き方もしくはフレックス等をベースに極限まで効率化を目指した方が、労務管理上、健全だと言えるでしょう。