労務管理に役立つ知識#15『安全配慮義務違反』と健康経営(渋谷・社労士・安全衛生・健康・労務相談・コンサルティング)
2022/04/30
健康経営というワードをご存じでしょうか。
健康経営とは、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のこと。
企業を支えているのは紛れもなく従業員であり、その従業員の健康に配慮した職場を提供するのが企業の役目。
健康経営を経営課題として捉えて実行とまではいかなくとも、最低限従業員の安全衛生に配慮した管理体制を講じなければなりません。
これに違反した場合、企業は多額の損害賠償の責任を負うことになるやもしれません。
そう、安全配慮義務違反です。
労働安全衛生法第5条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
この条文の背景には、陸上自衛隊事件にあります。ひとりの陸上自衛隊員が、自動車整備の作業中に車に轢かれて亡くなりました。この事件では、国家公務員に対し生命や健康などの危険から身を守る義務を怠ったとして、最高裁で原告側が勝訴したのです。これをきっかけに使用者側の安全性への責任が、いっそう強まったというわけです。
安全配慮義務の実際の範囲はどうなっているのでしょうか。
安全配慮義務には、健康配慮義務と職場環境配慮義務があります。
健康配慮義務とは次のとおりです。
①健康診断の実施
└1年(半年)に1回定期に健康診断を行い、健康状態を確認します。異常所見ありの者には産業医面談等を勧奨します。
②長時間労働管理の徹底
└過労死ラインに接触している、接触しそうな従業員へヒアリング。適切な措置を実施します。(業務指導、配転、現場責任者への指導等)
③メンタルヘルス対策の徹底
└ストレスチェックを実施し、心身の健康状態を確認します。高ストレス者には適切な措置を実施します。(配転や深夜業の禁止等)
職場環境配慮義務とは次の事項をいいます。
④ハラスメント対策の徹底
└職場内いじめなどを起因としたうつ病や自殺等を防止するため、職場環境の整備を講じて、労働者の心身の健康に配慮します。(ポスターの掲示や定期的な教育等)
もし、安全配慮義務違反として従業員が訴えてきた場合、どうなるのでしょうか。
民法415条の債務不履行、同法709条の不法行為責任、同法715条の使用者責任を問われ、多額の損害賠償を請求される恐れがあります。
そうならないためにも、日ごろから安全衛生管理体制を整えておくことが肝要です。
例えば、安全衛生教育や、装置の点検、労働者の健康管理(勤怠管理)、産業医と提携契約しておくのも良いでしょう。相談窓口の設置はマストです。
経営者は目先の利益に目が行きがちです。何か起こってから対処するでは遅い。まさに警察と同じ。だから事件は一向に減らない。職場内いじめ件数は年々増加している。よって安全衛生体制の構築及び強化については、人事部マターで進めていくべきだと感じます。経営者が安全配慮に後ろ向きならば、前を向かせるよう仕掛けていただきたいのです。プレゼンのネタはいくらでもあるはずです。過去の判例法理からでも、今般の知床観光船事件を取り上げてもよいでしょう。
もう一度言いますが、
会社を支えているのは紛れもなく従業員です。
このことを忘れることなく、適切な会社経営を切望しています。