『働き方と残業代』残業代を支払わなくてもよい働き方とは?
2021/09/21
定められた時間に業務を開始し終了する、俗に言う定時の働き方以外に、働き方を大別すると3つ挙げられます。
1変形労働制、2フレックスタイム労働制、3裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、時間外みなし労働制)
企業はできるだけ残業代を圧縮させたいのは当然です。こんな話を聞いたことはありませんか?「裁量労働制をとれば残業代ださなくていいらしよ」と。果たして本当にそうでしょうか。
そこで今回は経営者必見!それぞれの働き方を”残業代”という切り口でわかりやすく解決したいと思います。
目次
「ありません。経営者のみなさま、残業代はきちんとお支払いください。」
終了。
そう、存在しないのです。どのような働き方を選択したとしても、定めらた時間(法定労働時間)を超えた分から残業代は発生します。
ただし、残業代を支給しなくていいケースが1つだけあります。
残業代を支給しなくていい唯一のケースとは?
労働基準法第41条に明記されている条件に該当すれば、残業代の支給は不要です。
それではどのような条件なのでしょうか。
少々咀嚼して申し上げますと、
・経営の全部または一部にたずさわり、
・業務に裁量と権限があり、
・勤怠も柔軟で欠勤したとしても賃金控除されず、
・かつ役職者としてふさわしい賃金が支払われている者。
すなわち一般的に部長職相当者がこれに該当すると思います。(実態で判断するため役職名は目安です)
よって、労働基準法第41条に明記されている条件に当てはまらない労働者が残業した場合、会社は必ず残業代を支払わなければなりません。
なお、部長職の中でも、部下と同様の業務を常に実施していたり、権限を保持していない者、飲食店の店長、小さな町工場の所長等は、上記の条件に当てはまらない可能性が高いので、注意が必要です。
「原則支払うものである」と改めてお伝えしておきますね。
「なんだ、結局払わないといけないのか・・・だったらもうなんでもいいや」という声が聞こえてきそうでありますが、働き方ひとつで残業代は抑制でき、従業員の生産性向上も見込めますので、これからお伝えする働き方の特徴をしっかり捉まえて、貴社の従業員へ採用してみてくださいね。
法律上は下記のように定義されています。
「1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場(※1)は44時間)以内となるように、労働日
および労働日ごとの労働時間を設定することり、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えたりすることが可能になる制度」
相変わらず条文だとよくわからないですね。
要するに導入時のポイントをまとめますと、このようになります。
1.対象の期間が開始する前に、対象月の労働日と労働日ごとの所定労働時間を決める必要があります(便宜上「シフト表」と呼びます)
2.上記シフト表は、4週平均して週40時間(44時間)以内(4週160時間以内)になるように作成します
3.シフト表で定められた時間を超えた時間分(実働8時間未満勤務の場合は8時間を超えた時間分)から残業代が発生します。
飲食業やIT企業など、1日の労働時間が夜勤等、日によって長短がある業種でよく採用されています。
もう少し詳しく見ていきましょう。
出典:厚生労働省ホームページ「1か月単位の変形労働制の採用方法」
残業時間の集計方法 ポイントは「日」→「週」→「月」の集計です!
2.1の集計時に、実働8時間未満勤務で所定内残業をした場合は、その時間分を集計する
3.2の集計時、1の時間を除き、所定内残業時間を含め、週40時間未満でシフトを組んだ週は40時間、それ以外の週は定められた時間を超えた場合、その時間数を集計する*
4.*時間分を除いた時間数が、1か月単位の変形労働制上の月の法定労働時間**を超えた場合は、その時間数を集計する*
日→週→月の順に、それぞれ対象となる条件があります。日の条件で拾えなかった時間を週の条件で拾い、週の条件で拾えなかった時間を月の条件で拾うイメージです。よって複数の条件に合致して重複して残業代が計算されることはありません。
* 所定時間内残業とは、所定労働時間を超え法定労働時間(8時間)未満勤務した場合をいう。
**「1か月単位の変形労働制の採用方法」の『3.労働時間の計算方法』参照。後述しますフレックスタイム制の清算期間中の法定労働時間と同様です。
1か月単位の変形労働制は「シフト表」を事前に作成することが非常に重要です。1日の長時間労働が可能となるため、とりあえず変形労働制を採用したいという依頼がありますが「1か月の中で”残業する日(8時間を超える日)”と”残業しない日(8時間超えない日)”が明白である」すなわち、月初5営業日は前月度の集計管理で毎日12時間は固定で働いているが、月末に近づくほど定例業務はほどんどなく実働5時間程度、残りの所定労働時間はダラダラと過ごしている、このように1か月の中でメリハリのある就労状況に適しています。
裏を返せば1か月を通じて常に忙しい就労状況では、採用しても何の解決にもなりません。まずは業務そのものを棚卸し、ダラリの法則***等を用いて、業務の再構築をしていただくことをお勧めします。
***業務改善で使用されるフレームワーク。業務の「ムダ」「ムラ」「ムリ」を徹底的に見つめ、振り分け、改善します。「ム」を除外すると「ダラリ」。
新型コロナ感染対策の一環でテレワークが普及したことで、フレックスタイム制を導入検討されている企業が多くなってきましたね。フレックスタイム制とは、対象従業員が、始業終業の時刻を自由に設定できることが最大の特徴です。これで朝が苦手な方も午後から仕事、夕方保育園へお迎えに行くにもいちいち上司の許可を取る必要はありません。まさに仕事と生活との調和を主眼においた、現代に適した働き方と言えると思います。
さて、今回はフレックスタイム制を採用するうえではいくつかポイントがありますが置いといて、残業代発生のタイミングについて見ていきたいと思います。
残業代と集計方法① ポイントは「月の法定労働時間」です!
こちらのセクションでは清算期間が1か月の場合について説明します。
清算期間とは、ここでは「残業時間を判別する期間」としましょう。
フレックスタイム制の法定労働時間とは下表のとおりです。その月の歴日(日数)に応じて法定労働時間が定められています。
月の歴日数 | 月の法定労働時間 |
---|---|
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
イメージがつきやすよう、次に実際に事業主さまと行った会話を記載します。
事業主「なるほど、日、週単位ではなく、この月の総労働時間を限度として、それ以上は働かないよう周知すればいいってことですね!」
私「そうなんですけど、発想がブラックです。フレックスタイム制を採用の際、このような発想にならないようひとつの決め事として、上記法定労働時間の範囲内で月の所定労働時間(総労働時間と言います)を定める必要があります。
事業主「どういうこと?」
私「たとえば、就業規則上、所定労働時間が8時間、週休2日制(その他条件も同様)と明記の場合、その月の営業日数が20日であれば、160時間(8*20₌160)が総労働時間となります。所定労働時間や休日の考え方は原則就業規則どおりとしなければなりません。それと採用には労使協定書を締結しなければなりません。」
事業主「なるほど、労使協定締結はマストでしたね。そこは理解しています。それで結局残業代はどうなるのですか?」
私「残業代の支払いは”法定労働時間を超えた時間分があれば、その時間分お支払する必要があります。つまりは、表でお示しした時間を超えた時間分については、必ずお支払いしなければなりません。」
事業主「了解です。ちなみに総労働時間を超え、法定労働時間内の時間分はどのように取り扱えばよいでしょうか?残業代は支払う必要がなさそうなので、やはり法定労働時間まで働かせることが出来そうな気がしています。」
私「ここは超ポイントです。結論から申し上げますと実働時間に応じた金額をお支払いしなければなりません。ただし、法定時間外残業代としてではなく法定時間内残業代として支払う必要があります。」
事業主「法定内??何を支払うって??」
私「ざっくり説明すると下表のとおりです」
法定内労働時間(₌所定外労働時間) | 月の総労働時間を超えフレックスタイム制の法定労働時間内分の実働時間 |
法定外労働時間 | フレックスタイム制の法定労働時間を超えた実働時間 |
私「つまり、対象者が月給制ならば、賃金規程に従い時給を算出し、実働を掛けた金額を法定時間内残業代として支給します。法定時間外残業代(一般的に「残業代」と呼ばれるもの)は、この金額に割増賃金率(25%以上の会社が定めた率)を掛けた金額になります。」
事業主「なるほど、結局は総労働時間を超えたら別途賃金支払いが発生するということですね。」
私「おっしゃる通りです。労働法は労働者保護を目的としています。特に労働時間、賃金とりわけ残業代の支給方法、未払い等については年々厳しく見られていますので、今のうちからきちんと労務管理をしておくことをお願いいたします。また、フレックスタイム制を採用したからといって、日々の出退勤管理をしなくてよいというわけではありません。(すべての働き方共通です。)従業員の労働時間を含めて管理監督は事業主の責務です。これを怠り高稼働が原因で対象従業員が休職となった場合、事業主の安全配慮義務違反は免れません。ご認識いただいたうえで、お一人お一人に適した働き方を一緒に考えていきましょうね!」
事業主「ありがとうございます。ところで先生、うちは就業規則がないのですが。」
私「・・・。御見積させていただきます。」
フレックスタイム制の場合、法定労働時間を超えたら残業代支払い義務が発生するということを覚えておきましょう!
残業代と集計方法②
前セクションでは清算期間は1か月としましたが「2か月」もしくは「3か月」を選択も可能です。
原則残業代(総労働時間と法定労働時間)との関連性、考え方は同じですが、一部異なる点がございますので簡単におまとめしておきます。
2か月単位 | 3か月単位 |
---|---|
2か月の歴日数/2か月の法定労働時間 | 3か月の歴日数/3か月の法定労働時間 |
62⽇/354.2時間 | 92⽇ /525.7時間 |
61⽇ /348.5時間 | 91⽇ /520.0時間 |
60⽇/ 342.8時間 | 90⽇/ 514.2時間 |
59⽇ /337.1時間 | 89⽇/ 508.5時間 |
変更点 | 1か月単位 | 複数月(2か月,3か月)単位 |
---|---|---|
総労働時間の考え方 | 総労働時間を定める際、週40時間以内に抑える | 週50時間以内に抑える |
残業時間の考え方 | 1か月ごとに月の法定労働時間を超えた時間分を直近の支払日に支給(毎月支給) | 複数月単位で法定労働時間を超えた時間分をその時の賃金支払日に支給(複数月単位で支給) |
欠勤控除の考え方 | 総労働時間に満たなかった時間分は控除もしくは、翌月の総労働時間に加算 | 複数月単位で所定労働時間を上回った月、下回った月で相殺が可能 |
なお、3か月単位のフレックスタイム制は、施行後2年以上経過しましたが、未だに導入している企業をみたことがありません。3か月で帳尻を合わせればよいので使い勝手は良さそうですが、導入が進んでいないということは次のいずれかの理由が考えられます。
1.そもそも法改正後の制度を知らない
2.月ごとに繁閑があるわけではない
貴社が前者であり、かつ、ご興味がございましたら弊所までご連絡いただければご説明させていただきます。
裁量労働制とは専門業務型、企画業務型、事業場外みなし労働の3種あり、共通して業務の遂行を従業員の裁量に委ねていることが特徴です。また、それそれ対象業務、職種、指揮命令のかかり方など制約があり、誰でも裁量労働制を採用できるものではないことを覚えておきましょう。
直近の就労条件総合調査(令和2年度版)によりますと、裁量労働制を採用している労働者割合は8.9%です。
いかに普及していないかがわかりますね。
その理由は対象者が限られている、上司が部下を管理監督する文化が根付いている、制度を知らない、結局残業代を支払わなければならない上に導入がめんどくさい等原因はいくつか挙げられますが、普及方法はいったんは国にお任せするとしまして、今回は残業の発生タイミングでしたね。
ひとつのひとつ見ていきましょう!
専門業務型裁量労働制
裁量労働制のなかでは最も採用率が高い働き方です。使用者が具体的な指揮命令をすることが困難な業務として、職種が専門職に限れられています。ここでいう専門職とは労働基準法に限定列挙されており、たとえば、研究開発員、ライター編集者、TV局のプロディーサー、システムコンサルタント、医師、弁護士等がこれに当たります。
これだけでもかなり対象者が絞られますよね。
続きまして労働時間について見ていきます。
すべての裁量労働制において労使協定が必要です。そのなかで定められた1日が対象者の所定労働時間です。
たとえば、1日8時間と定められていた場合、3時間働こうが12時間働こうがその日は「8時間」働いたものとみなします。
この話をしますと100%事業主さまはこう答えます。
事業主「え?なるほどこれはいい働き方ですね。頑張って業務を早く終わらせれば、午後はプライベートに時間をあてられますし、ちょっと忙しくて残業した場合でも、8時間労働とみなすわけですから残業代は支払う必要ないですもんね!」
私「あ、社長。そうなんですけどそれは労使協定で1日のみなし労働時間を8時間で締結した場合です。」
事業主「What?」
私「労使協定で定めた時間を1日の法定労働時間としてみなします。たとえば1日9時間と定めた場合は、1時間×営業日数分の残業代を支払わなければなりません。また、深夜労働した場合、法定休日に労働したときは、それぞれの割増率で計算した金額分を支払う必要があるので注意が必要です。」
事業主「あ、でも8時間で締結してしまえばいいんですよね?」
私「従業員が納得しませんので締結出来ないでしょう。当然強制してはなりません。月の総労働時間を平均して、バランスの取れた時間を話し合いのうえ決定してください。有効期間は3年以内と定めがありますので、たとえば最初の3か月は1日8時間で設定しお試し運用、実態と乖離がでてきたら次の協定で適正時間へ修正することも可能です。」
★残業代との関係性
・労使協定で実働8時間と定めた場合、実働8時間を超えてもその日は8時間とみなされるが、客観的に見てその業務を遂行するうえで8時間を超えるときは、労使協定をその時間で再締結し、超えた時間分につき残業代を支給しなければなりません。実務上は、固定残業代としてあらかじめ支給しておくことが多いです。
★ポイント
・裁量労働制を採用したとしても、労働基準法の適用(労働時間、休日、深夜等)は免れません!1日8時間、週40時間(特例事業は44時間)を超えた時間分より残業代を支払わなければなりません。
企画業務型裁量労働制
業務内容が企画,立案,調査,分析に関連し、使用者が具体的な指示をしない業務とされ、一般的には事業運営の中枢に携わる労働者(俗にいうホワイトカラー労働者)をイメージしていただければよいでしょう。一部の営業マン(課題解決型)も対象になります。
専門業務型よりもさらに対象者は絞られ、なおかつ採用には労使委員会の設置決議や個別の同意が必要ですので注意が必要です。
複雑すぎてまったく普及しないのが大きな原因だと感じています。
続きまして労働時間について見ていきますが、専門業務型と同様です。
すべての裁量労働制において労使協定が必要です。そのなかで定められた1日が対象者の所定労働時間です。
たとえば、1日8時間と定められていた場合、3時間働こうが12時間働こうがその日は「8時間」働いたものとみなします。
★残業代との関係性
・労使協定で実働8時間と定めた場合、実働8時間を超えてもその日は8時間とみなされるが、客観的に見てその業務を遂行するうえで8時間を超えるときは、労使協定をその時間で再締結し、超えた時間分につき残業代を支給しなければなりません。実務上は、固定残業代としてあらかじめ支給しておくことが多いです。
★ポイント
・裁量労働制を採用したとしても、労働基準法の適用(労働時間、休日、深夜等)は免れません!1日8時間、週40時間(特例事業は44時間)を超えて時間分より残業代を支払わなければなりません。
事業場外みなし労働制
所定労働時間の全部もしくは一部を事業場外で行うため、事業主の具体的な指示が及ばず、対象者の労働時間を算出することがし難い業務とされ、労使協定で定めた時間分を労働したものとみなす制度です。一般的に営業職や旅行会社の添乗員が該当するかと思います。
ただし、今般、通信技術が発達し、個々に社用端末が配布されている状況下で「指示が及ばず労働者の労働時間を算出し難い」とは言えにくくなっているのが実情であり、判例でもことごとくその適用が否認されておりますので、採用には重々注意してください。
つまり「今何してる?」「日報提出して」「会議やるから準備して」「今の商談の報告して」など常に事業主(上長)と業務連携が取れる状況下にある場合は「事業主の具体的な指示が及ばず、対象者の労働時間を算出することがし難い業務」とは言えないでしょう。
採用のするには対象者に対して、全幅の信頼と実績が必要かと思います。
残業代との関係性は、その他裁量労働制と同様です。
裁量労働制のまとめ
たとえば、
・業務をコントロールできるので働き方に余裕ができ、仕事と生活の調和が図りやすくなる
・業務をコントロールできると仕事を楽しいと感じる傾向が高いことから、生産性、モチベーション、帰属意識が高まる可能性がある
貴社の従業員の能力、性質、責任感、実績、寄与度等を総合的に鑑みて、もしも該当しそうな方がいらっしゃれば、前向きに検討されてみるのもよろしいかもしれません。離職防止やメンタルヘルス対策の一策としても有効です。
いかがでしたでしょうか。
残業代は必ず支払わなければなりません。私は「残業代とは社員への感謝料」だと思っています。
気持ちよくお支払いしてください。
”いつも遅くまで会社のために働いてくれてありがとう。”言葉でもお伝えできればなおいいですね。
未払い残業代問題は世間でも関心があるトピックであり、ニュースで取り沙汰されますと一気にブラックなイメージが定着します。それでも企業ブランドがすでに確立していれば払拭できてしまいますがそれも一握りの企業。一つの綻びから負の連鎖は始まり、廃業に追い込まれた企業もございます。
これを機に、労使双方が納得のいく働き方を検討してみてはいかがでしょうか。
従業員は”人財”ですよね。”家族”と表現される方もいらっしゃいますよね。家族のために事業主は何ができるのか。
この記事が、少しでも貴社の労務管理にお役立ていただきますと幸いです。